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●タイムダラーの導入で異世代間交流が可能に

 

ヘロン久保田 『ふれあいねっと』の記事「安心して楽しみながら暮らすために」を読んでいただきますとよくわかるとは思うのですが、まずなぜ関前村でこの「グループだんだん」が生まれたかをお話しいたします。私は先ほども言いましたように、アナ・ミヤレスさん、エドガー・カーン博士が始めているタイムダラーに興味をもち、マイアミに何度も勉強にいきました。そのなかでタイムダラーの社会的役割の1つに異世代の交流があるというのを知りました。実は関前村は日本で高齢比率が2番目に高い地域で、高齢比率40%です。人口は1000人、小さな3つの島から成っています。この関前村に私たち「長寿社会を考える研究会」で5年前に調査に入りました。
先ほどの柿本さんの話にもありましたように、漁村の高齢者の人たちはとてもお元気でした。相互扶助の精神が昔から根付いているので、今さらお互いがお互いを助けるタイムダラーなどは必要ないということでしたが、若い人たちに話を聞いてみると、超過疎の島というのは決して人口だけの過疎だけではなく、お年寄りと若い人たちの会話の過疎だということがわかりました。例えば神戸から嫁いで来られた若いお嫁さんの話です。島から30分船に乗って今治市という町に買い物に行くのですが、港でたむろしているお年寄りたちが、「いったい、あの嫁さんどこにいくんやろう」というような顔をして見ているらしいのです。「島のお年寄りはみんな私にとっては姑です。もう、うるさくてうるさくて仕方がない」というふうに若い人たちは話していました。
そこで私が会話のない若い人と高齢者の間に異世代間の交流を可能にした、タイムダラーを取り入れることによって会話が生まれるのではないだろうかと考えたのです。異世代間の会話が生まれることは、村おこし、それから高齢者の在宅サービスの問題などにも村の人たちが若者も含めて積極的に取り組んでくれるのではないだろうかと思いました。それで3年前(93年)に、社会福祉医療事業団に助成金の申請をしました。私は総合企画会社に勤めておりますので、企画・提案を書くのは得意です。この島にとってどんなメリットがあるだろうかというようなことを、企業に訴えるように、もたらされるだろう利益・メリットについていろいろと書きました。私たちが今やっています「長寿社会を考える研究会」というのは実際に活動しているのはたった5人くらいの小さなグループですが、約370万の助成金をいただきました。その助成金で3年前(93年)にアナ・ミヤレスさんとエドガー・カーン博士を関前村に1週間、別々にお呼びしました。エドガー・カーン博士はタイムダラーの創始者で哲学を考えだした人ですが、エドガー・カーン博士には8月、アナ・ミヤレスさんには9月に来ていただきまして、実際に島の人たちと寝泊まりをしながらタイムダラーについて話をしました。
その時にいろいろな意見が出ました。「この島には「結(ゆい)」という相互扶助の精神が宿っており、自分たちは実際に助け合っているのだから、そんな外国から輸入するようなタイムダラーは不要」というようなお年寄りがいらっしゃいました。でも、まず試してみませんかということで74歳の女性が手を挙げました。その74歳の女性を中心に10人が集まりました。その1人は役場の人もいましたが、私は役場の職員ではなく、関前村の村民として参加しますということで、10人が集まりました。3年後の今、「ふれあいねっと」の記事を読んでいただいたらわかりますが、56人の会員がいます。

 

 

 

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